「鬱に励まし」が良くないのはある程度有名になってきて、医師国家試験の禁忌肢(それを選ぶと他の成績が良くても不合格)であったり、一般の人にも知られるようになってきた。しかしながら、「励まさなければいい」という風潮もあり、正確な理解はされていないのが現状だ。
鬱を「気分がふさぎこんだ状態」として捉える人がやりがちなのが「気分転換の勧め」である。家で閉じこもっていないで、たまには外に出て気分を変えて、というわけだ。しかしそれはむしろ逆効果で、最悪の場合を想定すると、昼間外で楽しく過ごして、その夜とか翌朝に自殺することが考えられる。
鬱とは、感情を電池に例えた時に、電池切れに近い状態である。それが楽しいことであっても、行動するのに多くの電池が消費され、楽しく振る舞うのにも同じくエネルギーが使われて、家に帰り一人になった時には、もう何をする力も残っていなかったりする。バッテリーの赤ランプが点滅していたら、やるべきことは充電であり、そっとしておいてあげるのはいいが、無理に連れ出すことはもってのほかだ。
鬱がひどいと、断ることすらできなくなる。誰かの誘いを断ることは、エネルギーがいることだ。つらい状態で、行きたくないと思っていても、それを断るだけの余力がない。決断ができなくなるのは病気の特徴であり、急かしたり強引に話を進めていくことは、病人に対して追い打ちをかけることになってしまう。
励ますばかりでなく、気分転換を勧めることも良くないことだ。まして無理矢理引っ張り出すのは、殺人と同じになる状況も考えられる。